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ライフハッカー、ハフィントン・ポスト、WIREDの現役編集長が語ったウェブメディアの現状と将来

7 月 11・12 日の 2 日間にわたり「Evernote Days 2014 Tokyo」をお台場の日本科学未来館で開催しました。Evernote が日本で開催するイベントとしては過去最大規模。各業界の第一線で活躍する多彩なゲストやスピーカーを迎えて、「記憶の未来」をテーマにさまざまなセッションが行われました。

これまで脳科学者・茂木健一郎氏の講演投資家・藤野英人氏の講演をレポートしてきましたが、今回は DAY1 に開催されたセッション「編集長会議 — 記録と記憶。メディアが僕たちの暮らしに残せるもの」をレポートします。

本セッションに登壇したのは、ライフハッカー[日本版]編集長・米田智彦 氏、ハフィントンポスト日本版編集長・松浦茂樹 氏、WIRED編集長・若林恵 氏という豪華なメンバー。モデレーターは Evernote より上野が務めました。日本を代表するネットメディアの編集長の皆さんは、記録と記憶の未来に何を見据えているのでしょうか(以下、敬称略)。

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(左から)Evernote 上野、ライフハッカー[日本版]編集長・米田智彦 氏、
ハフィントンポスト日本版編集長・松浦茂樹 氏、WIRED編集長・若林恵 氏

ライフハッカー、ハフィントン・ポスト、WIRED、それぞれの特徴と考え方

若林(WIRED):まずはこのページを見てください。これは WIRED での映画「トランセンデンス」の特集なんですが、雑誌の誌面のようにデザインしているんですね。僕はもともと紙出身で、ウェブに移ってからも WordPress にテキストと写真を流し込んでいくだけっていうのがつまらないなって最近とみに感じるんです。紙でテンションが上がるのって、デザインされて上がってくるところ。初めて色校が出てきたときの感動はすごかったです。デザインした形で表現されることの面白さがあるんですね。そこで、ウェブでも一つひとつの記事にデザインをかませようとしたのがこのページ。1 万 4,000 字くらい分量があって、評判もそれなりに良かった。映画の特集なんですが、映画よりもたぶん面白いんですよ(笑)。映画よりも、映画の記事の方が面白いという風にさせるのが、僕ら編集者の仕事だと思います。

米田(ライフハッカー):WIRED のこのページが、いわゆるブログメディアとは違うものを作ろうとしたんだろうなってことはすぐわかりますよね。ライフハッカーは SmartNews のようなキュレーションメディアとどう戦うのか、どう折り合うのかって言われることが多いんですが、ぜんぜん違うものだと思ってます。キュレーションメディアって淘汰が進んで、栄枯盛衰の時代。2、3 年後はどうなるかわからないし、自分たちとしてはもっと長いスパンでコンテンツを作り続けていきたいですね。

松浦(ハフィントン・ポスト):ハフィントン・ポストの場合はデータを買ってきてアグリゲーションして表現するわけですが、どこから買うかというと、日本なら時事通信や共同通信から買ってくるわけです。それにソーシャル上の味付けをする。お客様が何を求めているかを考えて、想定される材料を用意しておいてすぐに渡せるような感じですね。お客様のニーズはソーシャル上から考えます。媒体ごとにそれぞれのブランドの味付けがあって、ハフィントン・ポストだとこういう味付けになる、と。

米田(ライフハッカー):ライフハッカーは、ウェブを読む時間を消費ではなく、投資の時間にしてほしいという思いがあります。若林さんはデザインの上がったときに感動を覚えたって言われましたけど、僕らは「いいね!」が 1 万を超えることに対しての震えや感動を目指して編集者として作っていく感じですね。

消費されるウェブ情報に抗いたい

若林(WIRED):ただ、「いいね!」とか、PV を追いかけることってどうなのかなと思いながらやっているんですよ。たとえばさっきのトランセンデンスの記事は PV が 3〜4 万。だけど、読者の滞在時間が 15 分とかあるんですね。ライフハッカーやギズモードなど、広告を出すってなると、競合してPVでは負けてしまう。じゃあ PV でいいのかと。読者に何を提供するのかを、もっと言語化しないとダメだろうなと。

米田(ライフハッカー):滞在時間 15 分ってすごいですよね。僕は以前、ゲストハウスの記事を書いたんですが、7,800 いいねくらいで、PV は 5 万くらいかな。実はこれタイアップの広告記事なんですよ。ゲストハウスをやっている若者 4 人組の話なんですが、僕は彼らと立ち上げ時からの知り合いで、口コミを重視していてあまり報道されたくないってことで、僕らだからこそ話してくれたんです。そうすると滞在時間は他の記事の数倍、6 分とかになりました。僕らとしては広告記事を、普通の記事の 4〜5 倍くらい労力をかけて面白くしているわけで、広告とは思えないような記憶に残る記事にしたいですね。長い記事、短い記事とある部分でいうと、ウェブって長い時間には適していないと思うんですよ。紙の方が記憶に残る部分はあります。

若林(WIRED):ウェブは読者の興味が移り変わっていって、滞在させるのが難しいし、記憶に残る記事は作れるのかどうか。ウェブはフロー型で情報で早く回転するので、そういうものには向かないと言われていて、その前提に則って運用されてきたけど、それは本当なのか?ウェブで記憶に残る記事の作り方は本当にないのかを問いたいです。

米田(ライフハッカー):そこは僕も紙出身で、消費されるウェブ情報には抗いたいと思っていて、読者の記憶に何とかフックをかけたいと思っています。読者としては、Evernote のような外部記録媒体に記録して後で読めばいいというのが深層心理であって、ちゃんと読まないということもあるでしょう。だけど、じっくり最後まで読んでもらって読み返してもらえる記事を作れないのか。それは 10 打席 1 安打くらいだと思うけど、僕らは全打席で一応狙ってはいるんです。いろんな打てなかった理由はあるけど、打席で1割は打てる。

松浦(ハフィントン・ポスト):ネットメディアが担ってきたのって、記録としてのメディア。記事がウェブ上に残っていたとしても、読者がたどり着くためには検索など何かしらのフックが必要です。見られない記事は不可視だし、残っていても価値はありません。何かやっていかないと溜めておくだけになってしまいますね。

米田(ライフハッカー):僕はライフハッカーの前に Tokyo Source っていうウェブマガジンをやっていたんですが、未だに若い人から記事を覚えているって言われるんですね。100 人のクリエイターを発掘するという内容だったのですが、そういう青々しい思いが誌面に出ていて、1 ページが長いんです。それを最後まで読んでくれるからこそ、価値があるんじゃないでしょうか。ウェブは雑誌と違って、過去を検索して戻れますから。

松浦(ハフィントン・ポスト):日本の新聞社は消しちゃうからね。

インフラとしての情報と、プラットフォームとしてのメディア

若林(WIRED):コンテンツ作りに関していうと、社会が持っているニーズに対して当てていくことではないと思っています。それを出すことで社会が欲していたことに気づくというのが、理想的なコンテンツのあり方。今これが流行っているから、これを出しておこうというのには興味がないですね。

米田(ライフハッカー):「そこにある」って言い続けることでブームを起こせるんですよね。

松浦(ハフィントン・ポスト):それができるのは、やっぱりテレビですよ。ウェブメディアからはまだまだ出てきていない。

若林(WIRED):リアル社会への影響力みたいことでいうと、ウェブメディアはポテンシャルは持っているんだけど、まだまだ課題は多いよね。

松浦(ハフィントン・ポスト):クライアントからバズる記事をお願いしますって言われたりするんですよ。でもそれはわからないって話で。炎上も含めると受けるネタというのはあるんだけど、それは消費でしかないですから。ハフィントン・ポストはとにかくどんどん読んでもらうことで、規模を大きくしていく。大きくなったところで、刺しにいく。

若林(WIRED):WIRED はロゴが決まっている程度なんだけど、ハフィントン・ポストって、皿(テンプレート)が決まっている。そこがハフィントン・ポストの成功の一因なのかな。

松浦(ハフィントン・ポスト):ハフィントン・ポストは日本上陸最後発だからってわけじゃないけど、本国は何も言わないですね。各国の編集部にやり方から思想まですべて任されていて、ローカライズ 100 %という感じです。料理の例えで言うと、コース料理は全世界共通なので、どんな人がきてもその流れで食べられる。だけど、国によって舌は違うので、皿というよりは料理の作り方から各国に丸投げしているような感じです。たとえばUK版なんかはタブロイド紙っぽい感じですからね。

若林(WIRED):ハフィントン・ポストはメディアに対する考え方が、旧来型のメディアとは決定的に違うんだね。ソーシャルのプラットフォームなんだ。腑に落ちました。ハフィントン・ポストって巨大な井戸端会議なんですよ。井戸はただの井戸なんだけど、そこに人が集まることで、そこに屋台を出すなりしてビジネスになる。重要なのは、その井戸端会議のスケールをいかに大きくするか。それがソーシャルニュースのありようなんだなと。WIRED を3年やってますけど、なんで一生懸命作ったニュースをタダにしてるんだろうって未だにわからなかったです。

松浦(ハフィントン・ポスト):WIRED は井戸じゃないんですよ。WIRED というプロダクトで、いわばワインなんです。ハフィントン・ポストが井戸だとしたら、水(情報)はインフラ。WIRED が作っているのはワインで、それは生きていくためには必ずしも必要ではない。

米田(ライフハッカー):量販店と高級店に例えるなら、ライフハッカーはちょっと高級な雑貨店みたいな感じかな。

若林(WIRED):NEWSPICS の佐々木くんと話していたことなんだけど、ウェブのニュースは立食パーティーで、いろんな人と会っているんだと。紙は飲み屋で、書き手と読み手で価値の共有がなされた実感があれば記憶に残っていく。それがソーシャル上で起きても、記憶には残るんだろうなと。そもそも、情報ってそんなに要りますか? 僕はネットで Gmail と WIRED しか見ないし、新聞も見ない。それで困らない。情報って何だろう。

米田(ライフハッカー):このまま情報摂取しながら人生が終わってしまうっていう危機感はありますね。情報の海で生きているからこそ、離れることも必要なんだと思いますね。

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