3 月 18 日、日本経済新聞本社にてトークイベントを開催しました。本イベントでは「日本経済新聞 電子版」による「コンテキスト」機能のコンテンツ提供開始に伴い、連携機能の紹介や連携の背景などをご紹介しました。イベントは第一部と第二部にわたって開催され、第二部では日本経済新聞社・財満さん、ジャーナリストの津田大介さん、投資家の藤野英人さんによるパネルディスカッションも行われました。
第一部の冒頭、Evernote 日本法人より井上健が登壇し、「コンテキスト」機能に関するプレゼンを行いました。
第一部「日本経済新聞社との提携と、コンテキスト機能の提供の背景」
井上はまず、Evernote が目標とする姿について「検索できるのは当たり前。それだけでなく、ユーザにとって必要な情報を Evernote 側で自動で提案することを目指している」と説明。その上で、日本経済新聞と提携した理由を「情報があふれているからこそ、信頼できるものを提供したい」と述べました。
また、「コンテキスト」機能でこだわった点として「ユーザ本位」であること、「作業を妨げないデザイン」であること、「セレンディピティ」をもたらすものであることの 3 点を挙げ、「意図していなくても出会える、気の利いたアシスタントのようなものを提供したい」と意気込みを語りました。
続いて、日本経済新聞社様より財満さんにご登壇いただき、提携の背景についてご講演いただきました。
財満さんは Evernote と日本経済新聞の共通の価値観として「長期的な視点による事業展開」「本当に役立つ情報の追求」を挙げ、そんな 2 社が提携することで次の 3 つの変革をもたらすことができると言います。
1. いま必要な情報が目の前に現れる
2. オフィスで働く人々の生産性を向上させる
3. 知的活動、ワークスタイルを変革する
財満さんは現代の情報について、「多すぎて読む時間がなく、必要な情報が大量の情報に埋もれてしまう」という問題点を指摘。これに対するソリューションとして、Evernote と日本経済新聞が提携することによる「ノートと記事の偶然の出会い」があると語りました。
続いては、Evernote 米国本社より、AI デザイナーの中島大土ランツが登壇し、コンテキスト機能を支える「AI」技術について講演を行いました。
中島は冒頭、「私たちは、AI を『人工知能(Artificial Intelligence)』ではなく、 人間の機能を拡張する『拡張機能(Augmented Intelligence)』としてとらえている」と説明。「仕事のプロセスを再設計し、ネットで情報収集したときに出てくる古い情報や関連度が薄い情報などのノイズを減らすことで生産性を高めていきたい」
また、「コンテキスト」機能は「ユーザの仕事や生活をよりスマートにする第一歩である」とした上で、これから Apple Watch をはじめとする新たなプラットフォームが登場することに対し、「これまでの情報表示が通用しなくなる。どのように見せていくかがポイントになる」と、今後の展望を語りました。
パネルディスカッション「コンテキストが拡張する知的生産性」
第二部は、日本経済新聞社・財満さん、ジャーナリストの津田大介さん、投資家の藤野英人さんをゲストに迎え、Evernote 井上を加えてパネルディスカッションを行いました。テーマは「コンテキストが拡張する知的生産性」についてです。
口火を切ったのは津田大介さん。「日経新聞は以前はデジタルに強いというイメージがなかった。それがここ 3、4 年くらいで急速に進んだのは、どんな意識改革があったのか?」という津田さんの質問に対し、財満さんは「受け手がどういう形で情報を受け取りたいのか、メディアとして真剣に考えた結果、デジタルにシフトしていった」と答えました。
これに対し、「実は以前、しばらく日経新聞をとるのをやめていた」と告白したのが投資家の藤野さんです。投資家という職業柄、日経新聞をとるのが当たり前と思われがちですが、藤野さんは「やめてみても困らなかった。新しいメディアとして Twitter が飛躍したし、ネット上の配信で有益な情報はとれた」と、新聞の購読をやめていた時期について振り返りました。しかし、それからしばらくして、藤野さんは紙と電子版、両方の日経新聞を再び購読することにしたのだといいます。
「バラバラの情報をとるのもいいことだが、ひとつのメディアがまとめたものを毎日見るということにバリューが出てきた。また、Facebook などのキュレーターが紹介する情報を入手し、それを自分用にメモして Evernote に集約するというやり方で情報管理がとても快適になった」(藤野さん)
藤野さんは続けて、「大事なのは、情報がどう流れるのかということ」と言います。
「情報を共有するには、文書に残すか、音声でコミュニケーションするしかない。そうなると、情報が通るかどうかは信頼関係によるところが大きくなる。うちのチームで最重要視していることは、頭の良さよりも仲良くなり、お互いがリスペクトし合うこと。そこに時間を割いている」(藤野さん)
情報伝達の大切さを説く一方で、チーム内の信頼関係とコミュニケーションの大切さを強調する藤野さん。そんな藤野さんにとって、Evernote は「自分自身をメディア化するために必要なツール」なのだと言います。
「情報を一元化して入れておくと、自分自身をメディア化することができる。一番の情報は自分の中にあり、過去に自分が調べた情報こそが必要な情報。それを入れておき、検索できるようにしておくことが Evernote の重要な役割だ」(藤野さん)
一方で、津田さんは Evernote のコンテキスト機能について、「自分専用のナレッジデータベースをいかに作っていくかということ」だと述べます。
「原稿などはフォルダ分けしてしまっている。雑誌や媒体ごとに分けて整理しているが、逆に 18 年分の原稿を Evernote にぜんぶ突っ込んでおいたらどういう世界になるのかということに、興味が出てきた」(津田さん)
過去に書いたものを Evernote に入れておくと、コンテキスト機能により、偶然また出会うことがあるかもしれません。
「自分で書いた内容って忘れてしまう。10 年前とかに書いた本を読むと、自分でいいこと書いてるなと思う(笑)。過去の情報に触れることで、新たな知見が得られることもある」(津田さん)
こうした偶然の出会いーーセレンディピティーーは、本来はデジタルデータでは起こりにくいものだったと津田さんは言います。
「コンテキスト機能でそれが変わってくるのかなと思う」(津田さん)
続いてのテーマは、「今後、メディアはどうなるのか」というもの。
津田さんはまず、「コンテキスト機能を見て感じたこと」として、「Evernote は登録しているけど、日経に登録していないという人も多いだろうから、そういう場合はポップアップで出てきた記事だけを 100 円くらいで買えるようにするといいのでは」と提案。
これに藤野さんも賛同し、「セレンディピティを意図的に起こして、それを 100 円とかで買う人がいれば、過去記事も含めて収益化することができる」とコメント。
二人の大胆な提案に、日本経済新聞社・財満さんは「今のところは日経新聞はパッケージとして買っていただくというスタイルを変えるつもりはない」としながらも、「ストックとしての情報も活用していこうということについて、社内でも議論しているところ」と答えました。
では、情報の未来はどうなっていくのでしょうか。最近では Apple Watch が話題ですが、ウェアラブルデバイスが普及すると、情報の形も変わっていくのでしょうか。
このテーマについて、藤野さんは「PC 離れが進むだろう」と予測します。
「Apple Watch も iPhone がないと成り立たないビューワーなので、母艦とするのはスマホになる。すると、スマホが標準になり、スマホからの閲覧率が圧倒的になっていく。PC はむしろ補助的な役割になる。Apple Watch が出ることで PC 離れが進みそうだ」(藤野さん)
情報伝達がどんどん速くスマートになっていく中で、懸念点もあると語るのは Evernote 井上です。
「日本の生産性が低迷している。日本の IT 投資の中心はコスト削減とセキュリティで、生産性を向上させる戦略的な IT 投資は少ない」(井上)
これに藤野さんも同意します。
「健康経営に関する面白いデータがある。長期休暇をよくとらせたり、人間ドック取得率が高い企業の方が、社員に休みを取らせることをコストだと考える企業よりも生産性が高いという調査結果だ。休みをとることはコストではなく投資である。投資にお金を払う方が、結果としてリターンが大きいということは知っておいてほしい」(藤野さん)
藤野さん自身は、7 名でチームを組み、Facebook のグループで連絡を取り合いながら自由なスタイルで仕事を進めているとのこと。集まったり、離れたり、自由なスタイルで働く藤野さんは、大切なのは「チームが仲良くなり信頼を深めること」だと重ねて強調します。
「遠心力と求心力が重要。これは、外に飛んで行く力と、引きつける力のこと。日本は家族主義的経営なんていうが、日本こそ夫婦の会話、親子の会話が世界でもっとも少ない国。それがなぜ家族主義的経営なのか(笑)。人材を大切にしているなんて言っても、自分が勤務している会社が好きか聞かれて大好きだと答える人は日本だと 15% 〜 30% 程度。米国や中国はもっと多い。そんな状態で日本は生産が上がるのか。自分の会社を好きになる努力すらしていない」(藤野さん)
最後に井上が「Evernote はフルオープンでやっている。日本企業は情報をあまり開示しないこともあり、そういうところが生産性にもつながってくるのではないか」と述べて、パネルディスカッションを締めくくりました。