習慣とは、いわば「自動操縦モード」で行う行動のことです。今回は、習慣の中でも悪い習慣がいかに生産性を低下させ前進を妨げるか、そしてどうすればそれを良い方向に変えることができるかを見ていきましょう。
この記事は「生産性泥棒との戦い」シリーズの第 3 弾です。このシリーズでは、最高のパフォーマンスを発揮するのを妨げる習慣や要因のことを生産性泥棒と呼んでいます。第 1 弾では集中力の途切れについて、第 2 弾では決断疲れについて取り上げました。
皆さんは、職場にどうやってたどり着いたのか思い出せないことはありませんか? 確かに歯を磨いて、シャワーを浴びて、満員電車に乗って来たはずなのに、その一つひとつをはっきりと思い出すことができません。
これは、朝の行動が習慣化しており、意識的な思考が必要ないためです。一日の中には他にもこのように習慣化したルーティンがいろいろあります。
たとえば、午前中にチーズデニッシュを食べることや、大きなプロジェクトを先延ばしすること、ジムにいく代わりに SNS に何時間も費やしてしまうことが習慣化していませんか? こうした行動を意識的に選択して、それによって満足感が得られているのなら止める必要はありません。しかし、よく考えずにこうした行動をとっていたり、本当は他のことをしたいと思っているなら、思い切って習慣を変えてみましょう。
今の行動の代わりに、生産的な行動を習慣化できたらよいと思いませんか?
そこで今回は、生産的な行動を習慣化する方法を探り、より良いルーティンを作るための 4 つのステップを紹介します。
習慣はどのように作られるのか?
『習慣の力(英語記事: The Power of Habit)』の著者であるチャールズ・デュヒッグ氏は、習慣形成のメカニズムを考察し、以下の 3 つの要素で成り立つ「習慣のループ」を導きだしました。
- 脳を自動操縦モードにする「きっかけ」
- 何らかのアクションで構成される「ルーティン」
- 良い気分を与え、習慣のループを強化する「報酬」
たとえば、プロジェクトを任させたことによる不安が「きっかけ」となり、安心感を得たいという欲求が生じます。そこで、チーズデニッシュを食べるという「ルーティン」を行い、この欲求を解消しようとします。ここでは、チーズデニッシュを食べることで束の間不安を忘れられることが「報酬」です。
同じルーティンで欲求が解消されればされるほど、そのルーティンは脳のより原始的な領域に刻み込まれ、意識的な行動や賢明な判断より力を持つようになります。
このシリーズで以前に取り上げたニコラス・カー氏(英語記事)も、「ある経験を繰り返すと、それを司る神経細胞間のシナプスが強化されて増える」と指摘しています。このような脳の働きにより、私たちは新しいスキルを習得することができるわけですが、この仕組みは同時に「望ましくない習慣も定着させてしまう」のです。チャールズ・デュヒッグ氏は、この定着について「習慣が形成されると、脳はそれに関して本気で意識的思考を行うことを止めてしまう」と述べています。
習慣のループを破るには?
習慣の原始的なメカニズムはそう簡単に変わりませんが、それゆえに予測することが可能です。またうれしいことに、ほぼどのようなルーティンでも習慣化することができます。もう止めなきゃと思いながら何時間も携帯を見てしまうという悪いルーティンだけでなく、良いルーティンも習慣化して、ラクに行えるようにできるのです。
チャールズ・デュヒッグ氏によると、「古い習慣を変えるには、そこにある欲求に対処する必要があります。きっかけと報酬は変えずに、欲求を別のルーティンで満たすようにするのです」(太字化は筆者による)。
これを踏まえて、以下の 4 つのステップで習慣を変えてみましょう。
1.観察して記録する
まずは自分のルーティンに気づきましょう。習慣的に非生産的な行動をとってしまっていることに気付いたら、その行動の「きっかけ」になったのは何か、そしてその行動からどのような「報酬」が得られるのか自分に問いかけます。
そして、それらを書き出しましょう。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)によると、行動を記録することで、それを変えられる可能性(英語記事)が大きく高まるそうです。NIH で行われている減量に関する研究では、食べたものをすべて記録した集団は、記録しなかった集団に比べて減らすことができた体重が 2 倍にもなるそうです。
行動の記録には、Evernote のテンプレートをご活用ください。
英語版(オリジナル)/日本語版(翻訳版)
2.小さな成功を重ねる
非生産的習慣を変えるには、1 つのルーティンを変えることに狙いを定めましょう。新しいルーティンは具体的に設定し、小さな成功体験を得られるものにします。小さくても良いので、実感できる成功を重ねることが重要です。
チャールズ・デュヒッグ氏によれば、小さな成功を重ねることで継続的に成果を目にすることができるため、「自分は前進することが可能だ」という自信につながるそうです。また、変えようとしているルーティンが他の生産的習慣へとつながる可能性も高まります。
たとえば、「健康的な選択をする」というようなルーティンはうまくいきません。漠然としすぎているためです。「チーズデニッシュを食べたくなったら散歩をする」というように、具体的なルーティンを設定しましょう。
3.ルーティンを置き換える
非生産的なルーティンが何かわかったら、それを別のルーティンに置き換えましょう。大切なのは、これまでと同じきっかけに対して新しいルーティンを行い、同じ報酬を得られるようにすることです。
たとえば現在の習慣ループが以下のようなものだとします。
- きっかけ: 大きなプロジェクトを任せられて不安を感じる
- ルーティン: チーズデニッシュを食べる
- 報酬: 束の間、不安から解放される
新しい習慣ループの候補としては以下のようなものが考えられます。
- きっかけ: 大きなプロジェクトを任せられて不安を感じる
- ルーティン: 散歩に出かける
- 報酬: 束の間、不安から解放される
散歩はチーズデニッシュほどおいしくないし、砂糖による高揚もありません。しかし、ここで大切なのは、おいしさを求めることではなく「束の間、不安から解放される」ようにすることです。
4. チェーンを作る
これまでと同じきっかけに対して新しいルーティンを始めたら、その成功を目に見える形で表現しましょう。
俳優でスタンダップコメディアンのジェリー・サインフェルド氏が、新しいジョークをネタ張に書き留めるたびにカレンダーに大きな赤いバツ印(英語記事)をつけていたことは有名です。同氏はこう言います。「とにかくやってみること。そのうちバツ印がつながってチェーンになる。チェーンは毎日少しずつ伸び、数週間もたてばとても長いチェーンができる。そうなると、チェーンが切れないようにすることだけに集中すればいいんだ」
新しいルーティンを、進捗が目に見える物理的な何かに関連づけましょう。たとえば、新しいルーティンが毎日日記を書くことだったら、日記を書くたびにページの端を破って、壁に貼り付けるのもいいでしょう。
チェーンは単なる一例です。自分が前進していることを思い出させてくれるものであれば、なんでも構いません。
習慣の力を借りれば、日々の難しい局面も自動操縦モードで切り抜けられるようになります。一晩ですべてを変えるのは無理ですが、小さな成功を重ねることでいつの間にか大きな変化が生まれます。本シリーズの投稿で紹介してきたヒントや新しい生産的行動を身に付ける第一歩としても、ぜひ上記のステップを活用し、少ない労力で素晴らしい習慣を手にしてください。