皆さんは「農業」に対してどんなイメージをお持ちでしょうか。「自然」とか「肥料」とか……おそらく IT や IoT といったデジタルな言葉とはかけ離れた印象でしょう。もちろん、農業は自然を相手にしたアナログな産業です。しかし、それと同時に急速な IT 化が進んでいる業界でもあるのです。変革の中心を担っているのは、現在 20 〜 30 代を迎える新たな農業の担い手たち。中には Evernote をはじめとするクラウドサービスを使いこなしている人もいます。今回はそんな新進気鋭の農業人であり、埼玉県で農家を目指し研修に励む、加藤雅也さんにお話を伺いました。
健康に興味を持ったことで農業の道へ
――本日はありがとうございます。まずは加藤さんが農家を志すことになったきっかけから教えていただけますか。加藤さんはそもそも農家のご出身なのですか?
加藤:いえ、まったく違います(笑)。ごく普通の会社員の家庭なんですよ。
――えっ、ではどうして農業の道を?
加藤:私は生まれたときからアトピーや喘息があり、薬ではなかなか改善しなかったので治療法をずっと探していました。そのとき食べ物が大事であると書かれた本に出会ったんです。実際、食べ物を自然栽培(無農薬無肥料)のものに変えたら、徐々に体の変化が感じられるようになりました。そこで思ったのが、「自分がアトピーとして生まれてきたのは、なにか意味があるのでは?」ということです。「自分と同じようにアトピーで苦しんでいる人たちの役に立つ」という役割が与えられているような気がして、無農薬や無添加、有機栽培の食べ物をもっと広めたいと思いました。
――なるほど。そこから農家を志したわけですね。
加藤:体が楽になってからたくさんの農家さんを訪問して生産現場で勉強させていただきましたが、いきなり農家になることを考えたわけではありませんでした。最初は漠然と「食べ物に関わる仕事をしよう」ということで、小売の販売職に就きました。ただ、やってみると、もっと根本的に野菜を作るところから関わりたいという思いが芽生えてきたんです。そこで今年の 2 月から本格的に農家を目指し、無肥料自然栽培農家の明石農園で研修をスタートしたのです。
――現在は研修中なのですね。独立されるのはいつ頃の予定ですか?
加藤:希望としては来年の 2 月くらいを予定しています。実家の近く、埼玉県日高市で畑を借りて、農業を始める予定です。
――畑はレンタルなのですね。
加藤:I ターンなどで農家を目指す方も多いですが、そういう場合も地元の農家さんや地主さんから畑を借りて農業を始めるケースが多いようですね。
――ご実家は会社員なのですよね。農家を目指すことへの反応はいかがでしたか?
加藤:特に反対されるということはなかったですね。両親からも「やりたいことをやればいい」と言ってもらえています。
――それは嬉しい言葉ですね。ちなみに加藤さんが目指す農家とはどんなものですか?
加藤:野菜農家ですね。無農薬・無化学肥料であることもそうですが、少量多品目で作っていきたいと考えています。一般的な販売ルートではなく、個人宅配を中心にして直接お客様にお届けしたいですね。
「一年に一度しか必要としないけれど、一年に一度は必ず必要になる知識」が多い農業と Evernote の相性は抜群
――なるほど。少量多品目ですと大規模農家の大量生産のようなコストダウンは難しそうですが、その分、中間コストが少ない直販をメインにすることで利益も上げられそうですね。さて、ここからは加藤さんが農家をやっていく上でお考えの IT 活用法について伺っていきたいと思います。現在、Evernote をお使いいただいているのですよね。
加藤:はい。今はまだ研修中ですが、すでに Evernote はなくてはならないツールになっています。
――具体的にどんな使い方をされているのでしょうか。農業というと、こうした IT 系のサービスを特に必要としていないイメージもありますが……。
加藤:そんなことはないですよ。メモとしても毎日のように使います。たとえばこのノートには将来、独立したときに栽培したい野菜をメモしていますし、他にも植える間隔や発芽の適温などは野菜ごとに異なっていて覚えることがたくさんあるんです。もし Evernote がなければ普通に紙にメモしてファイリングして持ち歩いていると思いますが、それでは後から目的の情報を探すのが大変です。何しろ紙は検索できませんからね。
――たしかに野菜の育て方などをすべて覚えておくのは大変そうですね。
加藤:基本的に農業は「一年に一度しか必要としないけれど、一年に一度は必ず必要になる知識」というのが多いんです。毎日使う知識なら覚えていられるのですが、年に一度しか使わない知識をすべて記憶しておくのは大変です。そこで Evernote です。検索で目的のノウハウをすぐに引っ張り出せますし、端末を問わず使えるので畑に出たときもスマートフォンでサッと確認できます。
――Evernote がなければ、ノウハウをメモしたファイルを畑まで持ち運ぶことになりますよね。
加藤:畑が自宅からすぐ近くとは限らないので、メモしたファイルを忘れるたびに取りに帰るのは効率が悪いんです。その点でも Evernote はとても助かります。
農家がやっていることを広く消費者に伝えたい。Evernote はそのためのツール
――他にはどんなことを?
加藤:農園ではまだまだ書類などで紙を使うことが多いので、それは Evernote のカメラで撮影して取り込んでいます。それから Web クリッパーを使った Web ページの保存。仕事に関係するページはもちろんですが、それに限らず見ていいなと思ったページはすぐにクリップしています。僕はブログも毎日書いているので、そのネタを Evernote に入れていますね。
――毎日ですか! それは大変ですね。
加藤:僕たち農家がやっていることを広く皆さんに伝えたいんですよ。野菜がどうやってできるのか、スーパーに積んであるのを見るだけではわかりませんよね。それに、農家ももっと自分たちを表に出して覚えてもらう必要があると思うんです。Evernote はそのためのツールでもあります。
――なるほど。今後、農家として独立されたらこんなふうに使ってみたいと思うことはありますか?
加藤:種の管理に使えそうだなと思っています。種も一年に一度しか蒔かないので、どこにしまったかわからなくなるんですよ。写真を撮ってどこに保管したかを Evernote にメモしておくと便利ですね。それから出荷リストの管理。少量多品目生産で個人宅配中心ということもあり、注文が入ったらそのとき熟している野菜を厳選してまとめてお届けしようと思っています。これまでは一度畑に出たら出荷する野菜を確認するのは難しかったのですが、Evernote ならスマホでどこでも見ることができるので便利ですね。あとは農業に関するノウハウを入れておいて、農家の仲間たちとシェアするのもいいなと思います。
――使いみちは様々ですね。こうして考えると、農業と Evernote って実はかなり相性がいいのですね。最後に意気込みを聞かせてください。
加藤:来年 2 月に独立する予定ですが、最初の 1 年は農業の仕組みを把握することを目指して無理せずやっていこうと思っています。とにかくやめずに続けたいですね。その土地の風土に合った野菜を作り続けていきたいと思います。
――ありがとうございました!