アートと Evernote。一見遠い存在に見えがちですが、アート分野でも Evernote を使って自分の仕事や創作に役立てている人がいらっしゃいます。六本木ヒルズ・森美術館館長の南條史生さんはさらりと自分流に使うその一人。海外を飛び回り、慶應義塾大学講師も務めるなど、多忙を極める日々の中で Evernote がどんな役割を果たしているのか、南條さんにお話を伺いました。
氏名:南條史生(なんじょう ふみお)
所属:森美術館
「紙類は全部スキャナで取りこんで Evernote に上げています」
――南條さんはお仕事とプライベート、どちらで Evernote をお使いですか。
南條「仕事でもプライベートでも使うけど、どちらかといえば仕事ですね。海外へ行くことが多いので、出張のノートブックを作って、そこに飛行機のチケットや旅のスケジュール、現地の情報など必要なものをどんどん入れておきます。このノートブックをオフラインノートとして設定しておいて、インターネットにつながらない旅先でも自分に必要な情報を確認しています。旅行や出張が終わったら、それが旅のアーカイブになるわけです。写真だけは Flickr と Picasa を使ってますけどね」
――なるほど、旅の準備と記録を同時に Evernote で行えるわけですね。
南條「プライベートだと、レストランの情報を入れてますよ。これから行きたいレストランの情報とか、一度行ったレストランのショップカードとか。雑誌で気になったお店があれば、ページをスキャンして保存しています。日本と海外でノートブックを分けて整理していますね」
――仕事で世界中を飛び回る南條さんならではの使い方ですね。
南條「他には、送られてきた展覧会のチラシとか招待状も保存していますね。紙ものは全部スキャナで取り込んでそのまま Evernote に上げています。仕事柄、とにかくデスクに紙が多いんですよ。デスクの横幅が 2メートルくらいあるんですが、すぐ書類やファイルが積み上がってしまいます。一番困るのは大きな会議やプロジェクトの報告書で、捨てるわけにもいかないけど、1 冊あたり 数十ページあるので、全部とっておくと、とんでもないことになる。そういうときはスキャンして、Evernote に上げ、現物は処分しています。同じように本も、月に 50冊くらいはスキャンして電子化しているんです。もっとも、アート関係の本は裁断するのがもったいないのもあるので、そういうものは残しますけどね」
――Evernote を使うことで紙を減らすことができたのですね。
南條「Evernote を使い始めたこの 1 年で紙は相当減らしたと思いますね。とはいえスキャンして減る量より増える量の方が多いから、毎日戦ってますよ(笑)」
「Evernoteのいいところは、うろ覚えでも情報を引き出せること」
――お仕事柄、それは仕方ないことかもしれませんね(笑)。そもそも南條さんがEvernoteを使い始めたきっかけは?
南條「最初は名刺の処理をするために使っていたんですよ。それから違う使い方も考え始めて、邪魔な紙類はスキャンするようになりました。名刺は今でもスキャンして入れていますよ。実は名刺のノートブックは秘書と共有して使っているんです。これなら秘書の方で名刺が必要になったとき、いちいち私が名刺を探して伝えなくても秘書が自分で検索して探せますからね」
――南條さんは慶應義塾大学で講師もされていますが、講義にも役だっていますか?
南條「講義の資料やメモは Evernote に保存していますね。その(Evernoteの)ノートを、講義の直前にアシスタントにメールで送って、配布用資料をプリントしてもらいます。講義の概要はもうできているので、毎年それを手直しして、現状にあったものに改訂して使っていくわけです」
――そういう、”あとから使うもの”を入れておくと便利ですよね。
南條「そういう意味では、アーティストの情報とか、そのうち行きたい展覧会の情報なんかも入れていますね。Evernote のいいところはあとから検索できること。たとえば水戸美術館で展覧会があったなってときに、タイトルがはっきりしなくても『水戸』とかで検索すれば出てきます。うろ覚えでも構わないのが強いですね。アーティストも同じで、名前を覚えていなくても、『上海のギャラリーで会った』とか、そういう断片的なキーワードから情報を検索で引き出せるのが便利です」
「バックアップは、むしろクラウドの方が信頼性が高いです」
――名刺にしてもアーティスト情報にしてもそうですが、ずっと覚えておくほどでもないけど、完全に忘れるわけにはいかない情報の倉庫として使われているんですね。
南條「そうですね。それにバックアップの意味もあります。実は一度、仕事で撮りためてきた写真がハードディスクの故障で消えてしまったんですよ。そのときは別のハードディスクにバックアップをとっておいたから助かったのですが、そうやっていちいち複数のハードディスクにバックアップする作業も大変だし、だったら大切なものはクラウドに上げておけばいいやと」
――Evernote に限らず、クラウドサービスを仕事で使うとなると、セキュリティを気にされる方も多いです。
南條「セキュリティの心配もわかりますけど、コンピュータに入れた時点でどうしたって漏洩する危険性はありますからね。ハードディスクが飛んだ事件があってからは、むしろクラウドの方が信頼性が高いという結論に至りました。もちろん自分でハードディスクでバックアップしておくことも大切なんですが、加えて Evernote を使うといいですよね。私にとって Evernote は、バックアップと整理整頓、そして仕事の管理をするための重要なツールなんです」
――ありがとうございました。