今年の 2 月に開催された平昌冬季五輪。選手たちの熱いドラマを盛り上げたのが、モーグル元日本代表にして登山家でもある三浦豪太さんによるユニークな解説でした。選手一人ひとりのプレースタイルや戦績はもちろん、これまでの経歴や趣味、人となりに至るまで詳しく語る“豪太節”はインターネットでも大人気となりました。
そんな三浦さんが解説のためのデータベースとして愛用されているのが Evernote です。膨大なデータをどのように収集・蓄積し、本番の生放送で引き出しているのか。三浦さんの Evernote テクニックを伺いました。
魅力的な解説を支える膨大な情報の集め方
――三浦さんといえば、平昌冬季五輪でも話題になった“詳しすぎる解説”です。あれだけの情報をどのようにして収集されているのでしょうか。
三浦:選手の情報を追いかけ始めたのはソチ五輪からです。だいたいの情報はインターネットで調べたり詳しい人から聞いたりして調べています。戦績などの基本的な情報は各競技の公式ウェブサイトを見て、あとは選手の Twitter や Instagram、インタビュー、競技の動画、選手に関する記事などすべてチェックします。Wikipedia も見ますが、間違っていることもあるので、不確実な情報は必ず選手本人を取材して聞くようにしています。誤った情報を流すわけにはいきませんからね。
あとは、必要に応じて、番組のアナウンサーやアシスタントディレクターにノートを共有することもありますね。すべての取材に僕が行けるわけではないので、そういうときは彼らに取材をしてもらい、そこで得た情報をノートに書き込んでもらっています。
――集めた情報を Evernote で管理されていると伺いました。いつ頃から使われているのでしょうか。
三浦:Evernote に出会ったのは大学院時代です。論文に関する情報をまとめるのに使っていました。ウェブページをクリップしたり、PDF や写真といった様々な形式のファイルを一緒に保存したりできますし、検索が速いのも良かったです。あとは、複数のノートを同時に立ち上げて、並べて見ながら編集できるので、大学の授業でノートを取るのにすごく便利だと思いました。
Evernote で選手情報を管理するテクニック
――五輪の解説でどのように使われているのか、ぜひ教えてください。
三浦:たとえばモーグルなら「女子モーグル」「男子モーグル」などのノートブックをつくり、これを「モーグル」というスタックでまとめます。各ノートブックの中には、選手一人につき一つのノートを作成します。そこに選手の様々な情報を入れていくわけです。
――情報はどんどん追加、更新されるわけですよね?
三浦:もちろんです。古い情報を消すわけではなく、新しい情報をどんどん上に付け加えるように入れていきます。ただし、生年月日や身長などの基本的な情報は基本的に変わりませんし、確認することも多いので、一番上に固定で置いています。
――「基本的な情報」「選手の最新情報」「古くなった情報」という順番でつねに並んでいるわけですね。
三浦:はい。そして、実際の解説の際には、選手のノートをふたつ立ち上げて、一つは基本情報を出しっぱなしにし、もう一つのノートは解説の内容に必要な箇所を表示しています。こうすると、基本情報をつねにチェックできる状態にしつつ、その時々で欲しい情報を探すことができるのです。
――なるほど。現地では PC で確認しながら解説されているのですか?
三浦:そうですね。現地の解説席にはモニターが 2 つありまして、そのとなりに PC を置いて Evernote をつねに開いています。
――生放送は時間もなくて大変かと思います。選手がたくさんいると、ノートを探すのに手こずったりはしませんか。
三浦:タイトルを工夫すれば大丈夫です。僕は各選手のノートのタイトルをゼッケン番号にしています。さらに予選で落ちた場合などは、そのタイトルの頭に「X」をつけます。逆に勝ち抜いた選手のタイトルには「a、b、c」などをつけます。タイトルはアルファベット順に並ぶので、勝ち残った選手のノートが上に、予選落ちした選手のノートは自動的に下の方へと降りていくというわけです。それにノートには選手の顔写真も入れていて、それがサムネイルになっていますから、ノート一覧をスクロールするだけでも探せるのは便利ですね。
逆に情報だけ覚えていて、名前の方が出てこないということもあります。そんなときでも Evernote は検索が優秀ですから、キーワードを入れればすぐに出てきます。ノートブック内で絞り込み検索もできるので、検索結果が多すぎて探せないということもありません。名前だけでなく、あらゆるキーワードから情報にたどり着けるのが Evernote のすばらしいところだと思います。
――他に工夫されている点や使い方のポイントなどはありますか。
三浦:解説では、ほしい情報をすばやく見つけられることが大事なので、重要な情報や「ここは話そう」と思っているところは文字の色を変えたりハイライトしたりして目立たせています。とはいえ、それ以外の情報も大切です。というのも、テレビの解説は時間が少なくて話せるのは選手一人につき一言だったりするのですが、五輪では天候や選手の怪我などの影響で競技がしばらくストップすることも少なくありません。そんなときに場をつなげるのは、ハイライトした部分以外の話題だったりします。
――それがまさに三浦さんならではの“詳しすぎる解説”ですね。
三浦:あとはスマートフォンと同期できるのもいいですね。現地で取材するときは PC を開くわけにいかないので、スマートフォンで Evernote を立ち上げ、聞くべき内容を確認します。そして取材した内容はすぐにスマートフォンから入力します。すると PC でも更新されているので、同じことを書き込む手間がありません。
登山関係の情報も Evernote で管理
――五輪解説以外では Evernote をどのようにお使いでしょうか。
三浦:登山関係の情報も Evernote にまとめることがあります。タクティクス(登攀計画)やチーム編成、ミーティング内容、その日に撮った写真などを保存します。ミーティングでは紙の資料が配布されることも多いのですが、その場合はスキャンして入れるようにしています。
――Evernote をお使いいただいた感想をあらためて教えてください。
三浦:僕の解説は Evernote がなければできないといっても過言ではありません。ノートの自由度、検索速度と精度の高さ、使い勝手の良さなど、どれも他のツールにはない良さばかりです。これからもお世話になります。
――ありがとうございました!