住宅の建築やリフォームなど、生活に欠かせない「衣食住」の一つを担う建築業界。これまでは、どちらかといえば IT とは縁遠い業界だったといいますが、人手不足に悩まされていることもあり、IT 化による業務の効率化が急速に進みつつあります。
長野県南部を中心に地元密着型で事業を展開する井坪工務店も、IT 化を推進する企業の一つ。特に Evernote Business の導入により、それまでの様々な課題が一気に解決できたのだとか。どんな活用方法をされているのか、なぜ Evernote Business だったのか。同社の代表取締役である井坪寿晴さんにお話を伺いました。
井坪工務店が抱えていた 3 つの課題
――本日はよろしくお願いいたします。まずは Evernote Business を導入するきっかけを教えてください。
井坪:Evernote Business を導入するまで、弊社はいくつかの課題を抱えていました。まず営業資料の保存方法がルール化されていないことによる営業機会の損失です。誰かが資料を作って保存しても、それが個人の PC だと他の人は活用できません。紙で印刷して保管しても、一部の人しか場所を知らないため、もう一度同じような資料を作ってしまうこともありました。
また、業務内容を報告する際、担当者と上長の間で認識にズレができることがありました。たとえば担当者はお客様への初回提案時の内容を上長に報告するのですが、口頭ですと言い方の問題でうまく伝わらなかったりすることもあるのです。
三つ目は業務効率が悪いと感じていたことです。現場からの連絡に対応する際、状況がわからず、確認や対応にどうしても時間がかかっていました。現場にある資材も把握できないため、二重発注や不良在庫の発生に悩まされていました。
これらの課題を解決するためには、情報共有をサポートしてくれるツールが必須だと考えたのです。
シンプルなインターフェースが職人にも好評
――なぜ Evernote Business だったのでしょうか。他のツールは検討されたのでしょうか。
井坪:私自身が以前から Evernote を個人的に使っていたのです。Evernote は画面が見やすく、インターフェースも優れているので、職人さんも使いやすいのではないかと考えました。他のツールや SNS も検討しましたが、あまりしっくりきませんでした。
――導入に対して、職人さんからの反応はいかがでしたか。
井坪:もっと拒否反応があるかなと思っていたのですが、情報共有の重要性を皆わかっていたこともあり、反応はよかったですね。Evernote のメリットを理解してもらえたのだと思います。最初はシンプルに日報を書くところから始めてもらったのですが、それにコメントを返していたら私自身も何だか嬉しくなって(笑)。そこから少しずつ浸透していった感じです。
情報の保存場所が”個人の引き出し”から”会社の引き出し”に
――先ほど挙げていただいた「営業機会の損失」「業務内容の報告」「業務効率の改善」という 3 つの課題を、 Evernote Business でどう解決されていったのでしょうか。
井坪:「営業機会の損失」については、それまで個人の PC に保存していた資料を Evernote Business で共有するようルール化しました。「Evernote Business に入っているものが公式の情報である」と決めたわけです。この認識が広まったことで、個人の引き出しではなく、Evernote という”会社の引き出し”に情報が一元化できました。その結果、資料やノウハウを全員が使えるようになったのです。
もう一つの効果として、ペーパーレス化が進んだこともあります。社内会議などで配るレジュメは紙である必要はありませんから、事前に Evernote に入れておいて、会議で開いて見れば済みます。実際、営業や設計、工事など社内の部署ごとに会議があるのですが、そこでの資料配布がなくなったことで、20 % ほどの紙の削減につながったと実感しています。それに、紙を印刷する時間もコストですからね。
実は、以前は別のソフトを使って同じ試みを行っていたのですが、そのソフトはフォルダでファイルを管理するタイプだったため、検索性が悪く、Evernote のように一覧でノートをプレビューすることができませんでした。会議では次々に資料を開いていくことも多いので、ノートの内容の視認性がよく、検索で目的の情報へすばやくアクセスできる Evernote がベストだと感じています。
コミュニケーションが可視化され会議も効率化
――「業務内容の報告」のついてはいかがでしょうか。
井坪:日報などの報告内容をマニュアル化して、Evernote Business に入れるようにしました。それまでは口頭での報告のみになっていたり、報告を読むのは上長だけだったので、ときには誤解などを生むこともあったんです。それが、Evernote を使うことで報告を文字化し、コミュニケーションがオープン化されたことで認識のズレは格段に減りましたね。
中には報告の必要があるのにしていなかったことや、報告しなくていいのに報告していたこともあったのですが、それらが可視化されたことも Evernote のメリットです。
日報を共有することで、会議も変わりました。幹部会議ではリーダーの報告は受けますが、新入社員の仕事ぶりなどについて聞くことはほとんどありません。しかし、日報を見ながら会議をすることで、新入社員や現場の声が話題にのぼるようになったのです。情報がフラットになった効果ですね。
Evernote であらかじめ情報を共有しておくようにしたので、最初に認識のすり合わせをする必要がなくなり、会議自体の時間も短くなりました。感覚的には 4 分の 1 くらいになりましたね。その分、将来の展望など、今までにできなかった話ができるようになりました。
――初回提案の内容報告は具体的にはどんなものでしょうか。
井坪:たとえばお客様に提案した内容や、進捗度合いといったものです。最初は営業がお客様とお話させていただくのですが、その後は設計の担当者へ引き継ぎます。このとき、Evernote を使うと情報の引き継ぎが非常にスムーズにできるのです。
また、住宅のスペックを伝えるだけなら単に資料を渡すだけでいいのですが、営業がお客様からお聞きした情熱は伝わりません。家を建てるということはお客様にとって特別なことで、相談から設計、建築などの各ステージごとに強い思いを持っていらっしゃいます。
Evernote に担当者がどう対応したのかという報告を細かく書いておくことで、こうしたお客様の思いや情熱を次のステージの担当者へ伝えていくことができるようになったのです。現場の担当者が聞いた「ちょっといい話」なんかも保存しています。
メールに埋もれていた情報を Evernote で管理
――「業務効率の改善」についてはいかがでしょうか。
井坪:工事の状況を記録すること自体は、専用の管理ソフトで行っています。Evernote では現場から上がってくる改善点などの課題を入れており、それをもとに工事部がミーティングを行います。
解決した課題は「解決」ノートブックに移すのですが、このノートブックを公開しておくことで、ノウハウが共有できるのです。実際、棟梁会議では、この「解決」ノートブックを見ながら現状の課題を相談したりしているようです。
また、現場の資材などを把握できていなかった問題ですが、そもそもなぜそんな事態が起きるのかというと、連絡がメール中心であるため、大量のメールに埋もれてしまうからなのです。そこで、なるべくメールではなく口頭で話をすることにしたのですが、今度は話すために相手がくるのを待つの時間が発生します。
そうした情報の共有に関する課題は、Evernote に現場の写真や施工状況を入れることで解決することができました。
IT 化で変わる建築業界
――最後に、建築業界と IT の現状について教えてください。
井坪:業界的には職人の人手不足はもちろんですが、現場を管理する現場代理人の不足により工事管理の現場が疲弊した状況が続いています。この状況を改善するには、一人で複数の案件を効率的に扱うしかなく、そのために IT 化が重要になると考えています。
IT 化で業務を効率化することで、人と話したり考えたりする時間を作ることができますし、すでに業界ではシニア層の職人さんも当たり前のように IT ツールを使い始めています。
20 数年前まで、建築業界はクローズドな世界でした。職人の世界ということもあり、プライドが邪魔をしてお互いにコミュニケーションをとらない業界という印象だったのです。しかし、現在は IT 化の効果もあってか、変わりつつあります。他の業界と何ら変わらないサービス業になろうとしていると思いますね。
――ありがとうございました。