笑い、驚き、切なさ――ほんの短い時間で感情揺さぶる物語を楽しめるショートショートが注目を集めています。ムーブメントの火付け役となった作家の一人、田丸雅智さん。2011 年のデビュー以来、数々の作品を生み出し、新世代ショートショートの旗手として活躍されています。
そんな田丸さんのアイデアの入れ物としてお使いいただいているのが Evernote です。どんな場面で、どんな使い方をされているのでしょうか。お話を伺いました。
氏名:田丸 雅智(たまるまさとも)
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ショートショートは本来、スマホ時代に適したジャンル
――本日はよろしくお願いいたします。ショートショート作家としてご活躍の田丸さんですが、そもそもショートショートの定義とは何なのでしょう。
田丸:明確な定義があるわけではないのですが、僕自身は「短くて不思議な話」と自分なりに定義しています。
――東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒というユニークな経歴をお持ちですよね。田丸さんのデビュー以来、再びショートショートが盛り上がっていると感じます。
田丸:ショートショートというと皆さん思い浮かべるのは星新一さんですよね。逆にいうと星新一さん以降、ジャンルとしては衰退していると感じていました。僕がデビューしたときも、編集さんからは当初、「田丸さんの作品は面白いと思うけど、ショートショートは売れないから出せない」と言われていたくらいです。
しかし、ショートショートは本来、ちょっとした空き時間に読めるという点で、スマホ時代に適した小説だと思います。ただ、「ショートショートはインターネットと相性が良い」というのは 20 年くらい前から言われていることで、でも今まだメジャーになれていない。それを何とか変えていけたらと思って活動をしています。
――ショートショートの創作ワークショップを開催したり、ショートショート大賞を立ち上げられたりと、書き手を育てる活動も積極的にされています。
田丸:自分以外の書き手をどんどん育てていくことが、ショートショート界全体を盛り上げることにもつながると思っています。自分で書いてみることを通して物語のおもしろさに気づいていただければ、その読み手自体も増えるだろうと考えているんです。実際、小学校などで講座を開くと、図書室での本の貸出率が跳ね上がるそうで、ポテンシャルの高さを肌で実感しています。こういった感じで、ふだん本を読まない人にも書き手側からどんなアプローチができるだろうかと、常々考えています。
ネタ帳だけでなく Evernote で小説を書き上げてしまうことも
――Evernote の使い方についてもぜひ教えてください。いつからお使いなのでしょう?
田丸:6 年前からネタ帳として使用しています。それまでは紙とノートでした。Evernote というメモアプリがあるというのは、メディアの記事で知りました。
――具体的な使い方は?
田丸:ネタはいつでもどこでも思いつくものです。すぐにメモしたいので、作家さんの中には枕元にメモ帳を置いて寝る人もいるほどです。そのメモ帳が僕にとっては Evernote なんです。
たとえば道を歩いていて、ちょっと変わった人がいたり、面白い光景に出くわしたりすると、その場ですぐにスマホからメモします。「アイデア」というノートブックには常時 1,000 個くらいのネタが入っていますよ。
――そこからネタを取り出して小説の形に?
田丸:そうですね。Evernote 上である程度ネタを膨らませておいて、作品に落とし込んでいきます。本文は縦書きするので Word を使いますが、短い小説のときは Evernote 上で書くこともあります。たとえばレシート小説などがそうです。
――レシート小説?
田丸:三省堂さんのご協力で実現した企画で、600 字くらいの 1 話完結ショートショートをレシートに印刷して発券するというものです。この場合はそもそも横書きですし、短いので Evernote 上で書き上げることができました。
他に絵本も作っているのですが、その文章も Evernote 上で書いています。また、お題をもらって書くときも、最初から最後まで Evernote で書くことがありますね。
――共有機能などは使われますか?
田丸:レシート小説を編集さんに送るときなどは、共有リンクをメールに張って送ったりしていましたよ。それから、ファンクラブの方に創作状況をお知らせする場合も、ネタ帳の公開リンク URL を送ったりしていますね。
見せ方がうまく、別の端末でシームレスに作業を再開できるのが魅力
――ネタ帳以外の使い方はいかがでしょう。
田丸:行ってよかったお店や本に関するニュース記事などをウェブクリップしたり、買いたいものや行きたい場所、読みたい本、行った美術館などを記録したりしています。大事なメールを送るときは、Evernote で下書きしますね。
それから、Facebook や Twitter などを見ていて、おもしろそうなネタがあったら「おもしろネタ」ノートブックにクリップしています。たとえば貝殻を耳に当てると波の音が聞こえるというネタを元に、本物のサザエの貝殻で作ったラジオが発売されたとか、砂紋と石でより美しい庭園を作った方が勝ちというユニークなボードゲーム「枯山水」とか。おもしろいでしょう?
――たしかに、ちょっとショートショート的でおもしろいですね。田丸さんは、Evernote の良さをどこに感じていますか?
田丸:まず、使い勝手がいいですよね。これは”見せ方”の話になりますが、ノートを作ったとき、実際はクラウドに上げていても、見た目的には”いかにもアップロードしている”感がないんです。それが個人的に好きです。
ファイルを選ばないのもいいですね。小説を書くのは Word だと言いましたが、その Word ファイルを Evernote に入れておきさえすれば、別の端末でもシームレスに作業を再開できます。文字検索もすごいと思います。画像の中の文字まで認識してくれますから、困ったときは検索すれば情報を引き出せるという安心感があります。
Evernote は保存ソフトであり、ビューワーであり、編集ツールでもあります。Evernote だけで創作活動を完結できるのです。
――今後の活動について教えてください。
田丸:リアルな場、バーチャルな場にかかわらず、色々な切り口からショートショートの入り口を広げていきたいと考えています。特にバーチャルの面でいいますと、ふだん本を手に取らない方へ届けるため、Web や SNS などを積極的に活用して発信していきたいですね。それから、よく問い合わせをいただくのですが、今年から、僕の作品はイベントでの朗読を無料にさせていただいています。実際、この施策によって朗読してくださる方が増えていて、作品が届く範囲が広がっているなという感覚も出てきています。
一つの目標としては、書店にショートショートの棚ができてほしいと思っています。「あの棚に行けば、時間がない、読書が苦手な自分でも読める本があるらしい」と思ってもらいたいんです。ショートショートというジャンルを広げていきたいですし、もちろんその中で自分がトップランナーであり続けられるよう、もっともっとがんばっていきたいと思っています。
――ありがとうございました!