東京/渋谷にオフィスを構え、家電製品や情報機器のデザイン開発、サービスモデルのデザイン、コンセプトメイキングなどを手がける、tsug.LLC(合同会社ツグ)。同社代表であり、プロダクトデザイナーとして活躍されている久下 玄さんは、EvernoteとSkitch for Androidを使いこなすヘビーユーザーでもあります。プロダクトデザインという仕事でEvernoteとSkitchがどう役立っているのか、久下さんに伺いました。
氏名:久下 玄 (くげ はじめ)
所属:tsug.LLC
Twitter: @kugehajime
「Evernoteが消えたら僕は仕事ができなくなります(笑)」
――EvernoteとSkitchをかなりヘビーに使われているとか。
久下「そうですね、Evernoteが消えたら僕は仕事ができなくなります(笑)。それくらい仕事用のファイルをほぼすべて入れてありますね。逆にプライベートではあまり使わないかも。写真を撮っても放置しちゃってるし。Amazonの注文番号とか、振込先の口座番号とか、そういった情報メモとしては使ってますけどね」
――完全に仕事特化なんですね。ノートは何でもどんどん入れていくタイプですか? それとも一つのノートを編集して更新していくタイプですか?
久下「後者ですね。とにかく追記と加筆を繰り返します。ビジネスモデルを作るコンセプチュアルな仕事が多いので、概念を図表化してそれを取り込むことが多いですね。さらにミーティングでの会話を録音したファイルや手打ちでテープ起こししたテキスト、そういうものをプロジェクトごとにまとめて一つのノートに保存しています」
――そのノートを見ればすべて入っているというのはわかりやすくていいですね。
久下「風呂でアイデアを思いついたときなどは、タブレットを風呂のふたの上に置いて、Skitchで図を描いてそのまま取り込んだりとか。とにかく思いついたらすぐに描いて保存。思いついたことって、5分と覚えてられないんですよ。風呂から出る頃には忘れてしまう(笑)」
――それ、わかります(笑)。普段はどんなデバイスでEvernoteやSkitchを使われますか?
久下「iPhoneも持っていますが、Android端末で使うことが多いですね。Androidの一番いいところは、インテント機能でどのアプリからでもEvernoteに保存できるところです。iOSの場合はアプリに連結の仕組みが入ってないとダメですから。だからタブレットもiPadじゃなくてGALAXY Noteを使っているんですが、ペンもついていて僕には合っています。打ち合わせなんかだと、タブレットでSkitchを起動したまま会話中にどんどん図表や絵を描いていくんですよ」(と、話ながらさっと書いて頂いた図が、下の写真にある車のスケッチと概念図です。)
「Evernoteの良さはファジーであること」
――打ち合わせ中にSkitchを使われるんですね。
久下「そうなんです。もちろん紙に手書きすることも多いですよ。ただ、紙とペンは自由で速いのですが、それだけに“書けすぎてしまう”ので、考え方が複雑になりがちなんです。Skitchとスタイラスなら、自由度はあるんだけどあまり細かくは書けないし、イラストも抽象化せざるを得ない。だからこそ自分の脳をシンプル化できるんですよね。たとえば概念を示すためにあえてレゴブロックを使う人がいますが、それのもっと柔軟なバージョンです」
――なるほど、最終的に細かくてちゃんとした資料を作るにしても、アウトラインを作る段階ならそれくらいで充分ですよね。
久下「それにスピードもぜんぜん違います。たとえばアプリの遷移図を作るときに、最初からすごく綺麗に画面を作って1週間かかるよりも、手書きでもいいからすぐ返答できる方がいいですよね。速さって大事ですから。そういうときにもSkitchはすごく便利です」
――SkitchならEvernoteへの保存も速いですしね。
久下「Skitch以外にもドローソフトって色々と出てきているんですが、Evernoteがデバイスを問わずそれらの入れ子になっているというのは面白いですよね。僕はEvernoteの良さって、デジタルアナログ関係なく、ファジーであることだと思っているんです」
――というと?
久下「先ほどプロジェクトごとに何でも入れていると言いましたが、Evernoteにはそういう風に“ぐちゃぐちゃでも許される感じ”があるじゃないですか。僕はノートブックを社内のデザイナーと共有して資料のやり取りをしているんですが、かっちりしないといけない感がない。これがパワーポイントやキーノートだと、ちゃんと書かなきゃってなるんですけど、それが必要ないのでスピード感が出るんですよね。『お世話になっております』っていちいちつけるのは、やっぱり面倒なんですよね(笑)」
「Evernoteは一向に完成しない“Nevernote”」
――たしかに、Evernoteはいわば「自由帳」のようなものですからね。
久下「あとは“終わらない”というのが個人的に重要だったりします。ノートは縦スクロールで、いくらでも追記できますよね。それがタイムラインの概念を生んでいて、情報の構造化ができる。紙だと書いたら消せないし、ページをどんどん付け足していくってことができませんからね。僕にとってEvernoteは一向に完成しないノート、いわば“Nevernote”なんです」
――すばらしいキャッチフレーズ、ありがとうございます! ところでEvernoteで何をしていいかわからず挫折してしまう方もいるのですが、久下さんはそういうことはなかったですか?
久下「挫折したことはないですね。ノートを綺麗に整理しようとしたことがないからかも。全部を整理するのは限界があるし、カテゴライズするだけで疲れてしまいます。整理する機能はEvernoteが持っているので、そこはやってもらおうという考え方ですね」
――なるほど。
久下「そういえばEvernoteって一つ面白い現象がありますよね」
「意図的にカオスを作り出せるシステムがクリエティブな発想を生む」
――面白い現象?
久下「更新日で並び替えたときに、更新していないノートでも、カーソルが入っただけで更新されたと認識して上がってくることがあるんですよ。たまたま見ただけのファイルが上にくるという仕組みがユニークだなと」
――こんなノートあったあった! って懐かしくなったり驚いたりすることはありますよね。掃除中に昔の写真アルバムを見つけたみたいな(笑)。
久下「そういう“意図的にカオスが作り出せるシステム”って面白いんですよ。何かをクリエイションするとき、あらかじめ用意されたフォーマットの中に入れ込んでいく作業からは新しいものが生まれないんです。だからタグを眺めているだけで、昔クリップして忘れていたノートとの偶然の出会いがあったりする。たとえば今見ると……『脳波』っていうタグがありました(笑)。脳波セットをクリップしてますね。たぶん、これを買おうと思っていたんでしょうね」
――そうやって見直すだけでも面白いですね。
久下「ミーティングで特にフォーカスすることがないときなんかは、こうやってEvernoteを見るだけでいくらでも話題が出てきますよね。他にも語句で検索をかけたときに、OCRでぜんぜん関係のないノートが引っかかって、そこから新しい発想が生まれることもあります。これがEvernoteの面白さの一つですね」
――ありがとうございました!