日本学術振興会特別研究員として、少数民族の言語学の研究をされている児倉徳和さん。フィールドワークや大学の講義、さらにはプライベートでのライフログなど、あらゆる場面でEvernoteをフル活用されているとか。お話を伺う中で、Evernote上級者ならではのテクニックも教えていただきました。
氏名:児倉徳和 (こぐら のりかず)
所属:日本学術振興会特別研究員
「現地でのフィールドワークや大学の講義にEvernoteを活用しています」
――児倉さんは少数民族言語学の研究をされているそうですね。その調査にEvernoteが役立っているとか。
児倉「ええ。私が研究しているのは、中国新疆ウイグル自治区に居住する民族が話すシベ語という言語です。シベ族は18世紀中期に国境警備のため中国の東北地方から派遣され定住した人々の子孫で、現在シベ語を話す人口は3万人ほどです。私は毎年1回くらいの頻度で現地を訪れてシベ族の人々にインタビューし、書き取った手書きのノートや音声ファイルなどをEvernoteに保存しています」
――いつ頃からEvernoteを活用されるようになったのでしょう。
児倉「フィールドワークでは2010年から使い始めました。音声ファイルだけでなく、書き起こしたテキストも一緒に入れてあり、後から赤い文字でコメントを書き加えたりもします。他にもちょっとしたビデオクリップやフィールドワークの風景を写した写真なども入れていますね。Evernoteには50MB(注:プレミアムアカウントの場合。無料アカウントは25MB)のファイル制限があるので、その点には注意しています」
――大学の講義でもEvernoteを使われているのですか。
児倉「大学で音声学を教えているのですが、学生に教材として聞かせる音声のサンプル(クリックで再生)を入れています。使うときはAndroidケータイやタブレットとスピーカーを直接つないで再生していますよ。「教材」というタグをつけて管理しているのですが、Androidの場合、特定のノートやタグへのショートカットをホーム画面に置くことができるので、非常に重宝しています。こうしておけば、関連ノートへワンタッチでアクセスできるわけです」
――Androidならではの機能ですね。他にはどんなものを保存されていますか?
児倉「何でも入れていますね。いただいた名刺だとか、年賀状だとか、ウェブで公開されている論文だとか……もともと何でも取っておいて溜め込むのが好きなタイプなんですよ。でも紙類っていざ見返そうと思ったときに出てこないですよね。これじゃ取っておく意味がないなと思っていたのですが、スキャンしてEvernoteに入れるようにしてからは捨てていいやって。もちろん捨てられないものもあるんですが、Evernoteでいつでも見られるとなれば、しまい込んでしまえますからね(笑)」
――たしかに、物をしまい込むとしても、「いつかまた出さないといけないかも」というのと、「もう出さなくてもいい」というのではかなり意識が違いますよね。
児倉「そうなんです。あとは重要なメールをEvernoteアドレスに転送したり、レシートも入れてますよ」
――レシートは家計簿の補助として使われているのでしょうか?
児倉「最初はそう思ったんですが、それは直接別のソフトに打ち込んだ方が早かったです。ただ別の効果がありまして……」
「Evernoteにレシートを入れていたことで、思わぬ効果がありました」
――というと?
児倉「以前、妻と化粧品を買いに行ったのですが、そのときに「前に買ったのはこれだったっけ?」と尋ねられまして、試しにお店の名前とだいたいの日付けでEvernote内を検索してみたんですよ。そうしたら前に入れていたレシートが見事に引っかかったんです。Evernoteってすごい!と思いました(笑)」
――それはEvernoteというよりも、児倉さんのマメさがすごいのでは……(笑)
児倉「そうやって後から検索すると色々わかることもあって面白いです。スターバックスで検索するとレシートがどさっと出てきて、だいぶお金使っちゃってるなとか(笑)経年の変化が見られるのも興味深いです。」
――レシートって自分の行動記録そのものですよね。話は変わりますが「保存された検索」機能は使いますか?
児倉「使っていますよ。その機能はですね、Evernoteに入れたノートを整理するときに使います」
――ノートの整理ですか?
児倉「私は一週間に一度、Evernoteを整理するのですが、そのときタイトルやタグをつけずに保存した未整理のノートに、後からタイトルやタグをつけていくという作業をします。「保存された検索」機能を使うと、この作業をかなり効率化できるんです」
「“保存された検索”機能を使うことで、ノートの整理を効率化しています」
――具体的にやり方を教えていただけますか。
児倉「まず携帯電話で撮った画像つきのノートを検索します。自分でタイトルをつけずにEvernoteに入れると「無題のノート」や「スナップショット」といった仮のタイトルになるので、そのキーワードでタイトル検索します。するとタイトルを付け忘れたノートが抽出されるので、これに「昼食 サンドイッチ」など自分ルールに基づいてタイトルを入れていきます。スキャンした文書についても同じようにします。ここまで終われば、あとは流れ作業です」
――なるほど……。
児倉「次はin title、つまりタイトルの文字列で検索をかけ、出てきたものに指定のタグをつけていくのです。先ほど「昼食」というタイトルをつけたノートには「昼食」のタグをつけ、「朝食」というタイトルをつけたノートには「朝食」のタグをつけていきます。ここを流れ作業にすることで、整理にかかる労力を減らすことができるわけです。特に私はタグをたくさん使っているのですが、タグはノートブックと違って複数付けられるので便利です。」
――「保存された検索」の一覧を見ると、かなり細かく指示が書いてありますね。
児倉「この「保存された検索」を上から順番に見ていくだけで、未整理のノートがどんどん整理されていくという仕組みになっているわけですね」
――「保存された検索」を使った応用テクニックですね。
児倉「Evernoteのおかげで仕事もプライベートも整理が楽になりました。今となってはEvernote以前の生活は思い出せないくらいですが、昔は資料はバラバラに保管していたはずだし、海外に長期出張するときは資料を抱えて行ったものです。今はネットさえつながればいいわけですからね。でも本当に役立っているのはデータのバックアップかもしれません。昨年の震災時、私はこの部屋にいたのですが、調査ノートは置いてハードディスクだけを持って家路についたんです。でも家は遠く、途中で何があるかわからない……そういうとき、Evernoteにバックアップがあるというのは心強いと思いました」
――たしかに貴重な資料などが震災や津波、火災などで失われることは多いですよね。
児倉「そう、どんなに大切に保管していても、たとえば東京がなくなってしまったらすべて消えてしまいます。たとえば、かつてある先生が書いた博士論文が空襲で焼けてしまったという出来事もありました。特に少数民族言語の場合、調査記録がなくなったらその言語そのものがなくなってしまうという状況もありうるわけです。また、EvernoteのCEO・フィルさんはEvernoteを100年続く企業にしたいと仰ってますから、我々の研究をずっと残すためにもぜひがんばってほしいですね」